これからの野球を考えよう

教員・野球部顧問という立場から、今後のアマチュア野球や部活動のあり方について考えていきます。また、日々精力的に頑張っている指導者の方々の指導技術が向上し、選手たちがより良い環境で野球ができるようになるよう、私の指導論も紹介します。

2019年05月

気温も30℃近くになる日が増えてきて、かなり暑いなと感じる日も増えてきました。

さて、次の記事は、スポーツ界に大きな衝撃を与えたと思います。
東京都少年サッカー、夏の公式戦禁止 異例の熱中症対策
https://www.huffingtonpost.jp/entry/tokyo-soccer-match_jp_5ce0ae1be4b00e035b916b32

公式戦のみというのがちょっと残念ですが、大きな一歩ではないかと思います。

環境省のサイトに載っている暑さ指数です。

熱中症


近年、真夏の甲子園はいかがなものかという議論が盛んに行われていますが、子どもたちの安全を第一に、科学的に考えれば、日本の気候で7,8月に激しい運動をするのはかなり危険です。
熱中症で亡くなる選手・マネージャーもいますし、もちろん指導者だって安全ではありません。
よく、真夏に長距離ランニングをやらせているチームがありますが、以ての外です。
近年は平均気温も上がっているので、「俺たちの時は普通にやっていたぞ」という考えもよくありません。
将来的には、夏季の運動に関しても議論をし、様々なルールを設ける必要があるでしょう。
しかし、それはまだ先のこと。私たち指導者が、今できる熱中症対策を考えていきましょう。

そこで、私が指導者として行ってきた夏季の熱中症対策をご紹介します。
1.夏季は試合数を減らす
野球はサッカーなどに比べれば運動量は少ないですが、夏のグラウンドは立っているだけでかなりきついです。特に捕手は地獄です。夏季は試合数を減らし、短時間練習や野球の勉強を多めにしてのんびりチーム作りをしていきます。
2.練習は朝・短時間
日が昇ってからの練習はやはり熱中症の危険が高くなります。午前中で短時間の練習を集中して行います。夏の長時間練習は効率が悪いですし、熱中症はもちろん集中力が切れて怪我の危険性もあります。
私は1時間ほどバッティング練習をして、クーラーの入る部屋で野球の勉強をして解散ということをよくやります。
3.短パン、アンダーシャツ1枚での練習
野球のユニフォームは分厚く、全身を覆っているので、かなり熱がこもります。バッティング練習や守備練習は短パンで行います。また、薄着での活動もOKです。日焼け止めもしっかりと塗ります。
4.長時間練習時は30分おきにクーラーの入る部屋で休憩
合宿などでどうしても長時間練習になる場合は、こまめに涼しい部屋で休憩をとります。これを始めてからは熱中症は0になりました。
5.塩飴、氷タオル、こまめな水分補給
塩飴は必ず持ってきてもらいます。また、クーラーボックスを2つ用意し、1つは氷水にしてタオルを入れ、首を冷やしながら練習します。水分補給も自由です。

夏は長期休暇で時間もたっぷりありますし、どうしても活動時間が長くなってしまいます。しかし、それは非常に危険な事なのです。
まず、指導者がしっかりと熱中症対策のためのルール作りを行い、選手と保護者に徹底しましょう。そして、もし熱中症になっても、速やかにアイシングをしたりして、適切な対処ができるように知識を持ちましょう。

少年野球あるあるですが、ランダウンプレー(挟殺プレー)が延々と続き、最後はエラーで進塁。ランダウンプレーがしっかり取れれば、アウトも増えていくはずです。


ランダウンプレーは、次の3つの練習を行えば、すぐにできるようになります。


1.走りながら相手の胸に投げる練習

まず、4人1組を作り、塁間の長さのラインを引きます。そして、2対2になり、走りながら半分を通り過ぎたところ辺りで相手の胸に投げます。投げた人は受け取った側の方に移ります。これを何回も繰り返していきます。

ポイントとしては、手にボールを持ち、相手にボールを見せながら走ることです。


2.受け取る側がスタートダッシュをして受け取る

先ほどと同じように進めますが、今度は受け取る側が「スロー!!」と大きな声を出したのに対して投げ手側がボールを投げます。受け取る側は、「スロー!!」と声を出すと同時に、前に走り始め、走りながらボールを受け取ります。


3.ランナーをつけて行う

4人1グループのうち、1人はランナー、3人は守備側で実戦です。まず、守備は2人と1人に分かれ、2人側がボールを持ち、ランナーを追いかけます。あとは、先ほどの練習を活かしてランナーをアウトにします。

ボールのパスが3回以内にアウトにできれば守備側の勝ち、守備側がエラーするかパス3回以内でアウトにできなければランナーの勝ちです(大体パスを4回以上するほど時間がかかると、後ろのランナーが進塁してしまいます)。


最後に、ランダウンプレーの鉄則3箇条です。

一,常に3対1の状況で行おう。

一,投げるタイミングは受け取る側の「スロー!!」の声で。偽投は基本的にしない。

一,複数のランナーがいる場合は先頭のランナーだけに集中しよう。


参考までに、オリックスバファローズのランダウンプレーの練習です。


これで、ランダウンプレーでしっかりとアウトを取り、試合を優位に進めましょう。


現在指導者となっている私は、入部時に野球部の「目標」と「目的」を示します。
時々変えたりするのですが、大体は次の通りです。

活動目標:勉強と部活動を両立し、野球部だけでなく学年を引っ張る存在になる。
     自ら考えて工夫や努力をし、試合で勝敗を競う楽しさを知る。
活動目的:努力やチームワークの大切さを学び、社会に出ても活躍できる人間としての軸を作る。
     自立的に考え、行動する力を身につけ、どのような未来でも生き抜く力を身につける。

目標は、さしあたって実現させたり、成し遂げたり、到達しようと目指すものを言い、最終的に実現しよう、成し遂げよう、到達しようとして目指すものを言います。

簡単に図示すると、次のような感じでしょうか(わかりにくくてすみません)。
スタート地点⇒目標⇒目的
私の目標と目的の感覚的な違いとしては、以下のようなものです。
目標は、部活動(チーム)に所属している間に学んでほしいこと。(現在)
目的は、部活動(チーム)で学んでいることが、将来こういう役に立つのだということ。(未来)

ほとんどのチームは、活動目標や目的に「大会優勝」とかを挙げていると思いますが、私はあえて挙げず、「試合で勝敗を競う楽しさを知る」としています。
はっきり言って、勝ち負けはどうでもいいのです。負けたから命をとられるわけではありませんし。
勝ち負けが重要なのはプロの世界だけです。プロはそれで飯が食えるかどうか決まるのですから、命懸けです。
学生野球で大事なのは、勝ち負けを競えるほどの努力をした、みんなで頑張ったという過程です。
毎試合10-0のコールド負け。これでは努力したとは言えませんし、楽しくも何ともありません。
けれど、毎試合手に汗握る僅差で、勝ったり負けたりして、喜んだり泣いたりする。これがスポーツの本来の楽しみ方です。
大会で優勝したとかは、「工夫と努力を続けたら何か勝っちゃった!」ぐらいの感覚です。

どうも目標や目的に勝利を目指す文言があると、それを目前にした時に手段を選ばなくなってしまいます。これが投手の酷使や異常な猛練習をもいとわない「勝利至上主義」につながっているのではないかと思います。

選手たちが本気で勝ちたいと思えば、勝つための努力を各自が勝手にします。勝利への渇望は本来選手からわき起こるものであり、指導者が勝利を強制してはならないのです。
もちろん、選手たちが本気で勝ちたいと思うのであれば、指導者はそれに応えることも必要です。
ただ、それは一人の投手が酷使されることや異常な猛練習によってではありません。複数の投手をそろえるチーム運営をしたり、勉強との両立をしたり、科学的で効率的な練習をすることによってです。

基本的に、学生野球は教育の一環を謳っています。部活動もクラブチームも同じです。
指導者は教育者でなければなりません。教育とは、子どもたちの将来を輝かしいものにすることです。
無理な起用で選手を壊したり、暴言や体罰で脅したり、猛練習の結果勉強が疎かになったり・・・。これは選手の将来を考えた教育とは言えませんね。
どれだけ強いチームだったとしても、それはその時の話。子どもたちの将来がつぶれてしまっては意味がありません。

皆さんのチームの目標や目的は、子どもたちの将来を考えたものでしょうか。
新しい視点を持って考えてみてください。

③高校~ファシリテーターとしての指導者~
高校野球の練習風景というと、監督が大きな声で指示を出し、選手たちが大きな声で返事をして猛練習に励む・・・。
ほとんどの人がこのような光景をイメージすることでしょう。

学生野球にしても、企業にしても、「強いチーム」とはどのようなチームでしょうか。
私は、「各自が自分の考えで動くことができ、物事に柔軟に対応できるチーム」だと考えています。

まず、高校生と関わるうえでの大前提としているのは、彼らを大人として扱うことです。

「君たちはもう働ける年齢だから、私は君たちを大人として扱う。大人と子どもの違いは、自分の行為や結果に自身が責任を負うということだ。そのことを肝に銘じて活動してほしい。先生も適宜アドバイスはするが、中学生の時のように細かく指示は出さない。」
このようなことを最初に話します。

会社で毎日部下たちを怒鳴り散らしている上司はいないでしょう。部下たちもいちいち上司の指示を待たず、自分たちで会議をしたりして動いているはずです。
そこで、高校野球の指導者はファシリテーターという立場で関わっていきます。

さて、ファシリテーターとは何でしょうか。
ファシリテーターとは、グループや組織でものごとを進めていくときにその進行を円滑にし、目的を達成できるよう、中立的な立場から働きかける役割を担う人のことです。

高校野球までやるという人は、中学時代までに基礎基本などは身についていますし、目的意識もはっきりしています。
会社であれば、社員全員がどうやってたくさん利益を出そうかと考え、高校野球であれば、部員全員がどうすれば勝てるのかを考えています。

高校野球における指導者は、彼らの主体的な活動を、よりスムーズに行わせるための潤滑油としての役割が重要です。
私は細かい戦略面などの話はしません。たまに、「こんな攻め方もあるよ」みたいな提案はしますが、それを採用するかどうかは選手たち次第です。どういうチームにしていきたいのか、打順や守備位置も、全部選手が決めています。
ベンチでは常に選手たち自身で攻略法や戦略を話し合っています。自分たちで答えを出したものには、自信を持って取り組めますので、必然的に良い結果が生まれてきます。

私は徹底的にメンタル面を重視していました。
冗談を言って場を和ませたり、緩んでいてケガなどにつながりそうなときは一度全体を集めて一度休憩時間をとったりします。選手たちとの会話も、監督と選手というより、大人同士としての会話です。
「調子はどうだ?」「学校生活はどうだ?」「この前の休みはどこ行った?」
演技で怒った態度を見せたことはありますが、本気で怒ったことは一度もありません。なので、ストレスフリーです(笑)
試合前のベンチでも、一人一人声をかけたり、笑い話で緊張感をほぐし、試合中はとにかくポジティブ。
凡打なのにホームランを打ったかのようにハイタッチをしてベンチに帰るチームがあるでしょうか?

練習は、選手たちにほとんど任せます。なので、「監督、ノックお願いします」とかがない限り、安全面の管理だけを気にしています。

もちろん、ただ見ているだけでは信頼関係は生まれません。会社でも、困ったときに相談できる頼れる上司というのは大事です。
個別練習にはしっかりと付き合います。ただ、基本的には選手側から「教えてください」と来なければ指導しません。たまに、悩んでいるけど言い出せない、という選手には声を掛けますが。

無論、それぞれチーム事情はあるでしょう。「それはおたくの選手のレベルが高いからできることだ」と言われることもあります。
ただ、私はこの方法で優勝させて頂いたこともあるので、一つの方法として間違いではないと思います。また、自分たちでチームを運営し、目標に向かって努力した経験は、必ず将来にも役立ちます。

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